台風直撃の影響

2006年9月17日、九州クラス別・福岡県クラス別を見に福岡へいった。

この数日前から、北九州に台風13号が近づいていることは知っていたが、行く時には何事もなく新幹線は動いたし、台風の進路予想はよくはずれるので、あまり気にしていなかったが、大会が終わって、会場の外へ出てみると外は暴風雨になっていた。

この時は天気予報通り、夕方になって台風は北九州を直撃していた。

山口に帰ろうと思って博多駅に行くと、ものすごい人でごったがえしていたので嫌な予感はしたが、やっぱり新幹線は止まっていた。

「ただ今、運行を見合わせております。」といったアナウンスが駅構内に響いている。

座り込んでいる人や駅員を怒鳴り散らしている人もいた。

しばらく駅で待ってみたが、一向に運転を再開するような雰囲気はない。携帯で台風情報を見てみると、台風通過は深夜になるようなので、今日中に新幹線が動き出すことはまずないようだった。

出発前、もしも新幹線が止まったらどこかホテルに泊まるしかないと思ったので、一応シャツとパンツと靴下だけは持ってきておいたが、本当にこういう事態になるとは思わなかった。
帰れないのだったら会社に電話しておかなければならない。

自分はいつも夜の勤務なので、夜出勤して朝帰ってくる生活をしている。要するに昼と夜が反対の生活をしているのだが、こういう生活になって、2011年現在で9年くらいになる。

この日の夜は仕事は休みではなく、出勤の日だった。博多から帰ってそのまま出勤する予定だったが、帰れなくなってしまったので、会社に電話しておいた。

「もしもし、あのー、吉田ですけど、すいません、今、博多駅にいるんですけど、新幹線が止まって帰れなくなったので、今日、休ませてもらっていいですか。」

と連絡しておいた。

結局会社を休むハメになった。
ホテルを探そうと、博多駅の中の旅行会社に行ってみたがガラス戸が閉じられており、「ただ今市内のホテルは満室です。」と張り紙がしてあって、中には誰もいなくなっていた。いかにも「もう、同じこと聞いてくるなよ」と言っているような感じだった。

自分でホテルを探すしかない。駅から見えるホテル6軒か7軒に一軒一軒歩いていって、部屋が空いているかどうか聞いてみたが、全部「満室でございます。」と断られた。

では、ネットで探すしかない。一応モバイルを持ってきていたのでネットに接続して博多駅近くのホテルを検索し、出てきたリストの最後尾から順に一軒一軒電話をかけてみると、なんと4軒目にかけた所が部屋が空いているという。これはラッキー。


すぐタクシーに乗ってそのホテルへ向かった。博多駅からは結構遠いホテルだった。タクシーに乗っている間にも、雨と風はどんどん激しくなっていった。

着いたそのホテルは、何か朽ち果てたようなえらい古いホテルだったが、この際、贅沢は言ってられない。

チェックインして部屋に入ってから、すぐに晩メシを買いに外へ出た。フロントの人に教えてもらったローソン目指して傘をさして歩いたが、すさまじい暴風雨で、横断歩道の前で信号待ちをしていたら、突風が吹いてきて道路に2~3歩踏み出してしまうほどだった。

ローソンで焼酎と食い物とレインコートを買って、レインコートを来て再びホテルに向かった。歩いていると、小さい看板などが空を飛んでいた。

暴風が進行方向とは逆から吹いてくる。気を抜くと本当に飛ばされそうな勢いである。電柱や標識につかまりながら、ようやくホテルまでたどりついた。これほどのすごい風は、この時に初めて経験した。

部屋に入ってほっと一息つけた。だが、さっきは荷物を置いただけで気づかなかったが、よく見るとこの部屋は驚くほど汚い部屋だった。

机の隅とか上の出っ張った所にはものすごいホコリが積もっている。それも黒いホコリ。風呂の換気扇も真っ黒なホコリで覆われており、床にもあちこちホコリの塊(かたまり)が落ちていた。

カーテンを開けるとガラスにヒビが入っていた。

トイレは洋式便器だったが、座ると便器がグラグラ揺れる。垂直に座っていないと便器が倒れるんじゃないかと思うほどだった。



シャワーを浴びていたらお湯が止まった。しばらく待っていると弱々しくお湯が出てくる。しばらくするとまた止まる。いつお湯が完全に止まってしまうのかヒヤヒヤものであった。風呂に入っている間に一回停電した。幸いすぐついたが、停電は台風に影響だろう。

置いてあるイスにはコーヒーでもこぼしたようなシミがくっきりついている。
直接座ると気持ちが悪いのでバスタオルを敷いて座り、テーブルに食い物と酒を置いて飲み始めた。



しかしここは本当に客室か。これほどのレベルのホテルには初めて泊まった。
ここで飲みながら、ふとある考えが頭をよぎった。

ひょっとしてこの部屋は幽霊が出るので「開かずの間」として封印されていた部屋ではないのか。もう何年もこの部屋には誰も泊めていない。だから掃除もしていない。

それが今日のように新幹線が止まって、ホテルを探している人があふれているような日になったもんだから、最低限の掃除だけちゃっちゃっとやって「ここにも泊めてしまえ」とあてがわれた部屋がこの部屋ではなかろうか。

なまじ心霊コーナーをやっていると、その手の本をよく読むので、すぐそういう方向に考えがいってしまう。

怖いので部屋の電気を全部つけっぱなしにして、テレビもつけっぱなしにして、思いっきり酒を飲んで寝た。

次の日、目が覚めると雨はやんでいた。超常現象は起きなかった。

博多駅に行くと新幹線は通常通り動いており、無事、徳山(とくやま)駅に帰ってくることが出来た。

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